高等部ブログ
「AIでなくなる仕事」で学部を選ぶ前に——進路の不安への、一つの考え方
2026/06/04
こんにちは、リード予備校の佳山です。
面談をしていると、「AIで仕事なくなりますよね?」と正面から聞かれることは、実はあまりありません。でも、保護者の方の表情の奥に、お子さんの将来への一抹の不安がにじんでいる——そう感じる瞬間は、確かにあるんです。
情報学部に進んだらAIにどう影響されるんだろう。経理や経営の道は大丈夫だろうか。法曹の世界もAIに脅かされるんじゃ……。こういう話題、ここ最近の面談でずいぶん増えました。
その不安、わかります。ただ、進路を「AIで消える/消えない」だけで選ぼうとすると、ちょっともったいないことになる。今日はそんな話を、最近読んだ研究を手がかりに書いてみます。
そもそも「AIでなくなる仕事」って、ちゃんと測られているの?
ネット記事だと「AIでなくなる仕事ランキング」みたいなものをよく見かけますよね。煽り気味のものも多くて、正直あまり信用していなかったんですが——マイクロソフトリサーチが2025年に出した研究は、なかなか手堅い作りでした。
何をやったかというと、Microsoft Copilot(旧Bing Copilot)の20万件の会話データを分析して、「AIが実際にどんな作業を手伝えているか」を職業ごとに数値化したんです。これを「AI適用度スコア(AI applicability score)」と呼んでいます。
結果、スコアが高かった——つまりAIが得意な作業と重なりが大きかったのは、通訳・翻訳、ライター、歴史家、営業、カスタマーサービス、プログラミングといった、知識を扱い、書いたり伝えたりする仕事でした。通訳・翻訳にいたっては、作業の98%がAIの頻出タスクと重なっていたそうです。
逆にスコアが低かったのは、看護助手や採血技師、建設・機械操作など、身体を使う仕事や、人と直接ふれあうケアの仕事。AIは、文章を書くのは得意でも、野菜を刻んだり、患者さんの手を握ったりはできませんからね。
ここまでは「まあ、そうだろうな」という話。問題は、ここから先なんです。
でも、研究者自身が「仕事がなくなるとは言っていない」
ここが、今日いちばん伝えたいところです。
この研究が話題になったとき、ネットでは「AIに奪われる職業40選」みたいに広まりました。でも、論文を書いた研究者たち本人が、後からわざわざブログで釘を刺しているんです。
「私たちの研究は、仕事がなくなるという結論は一切出していない。むしろ論文の中で、そう解釈しないよう明確に警告した」と。
スコアが高い=その仕事がAIに置き換わる、ではないんですね。あくまで「AIが手伝えるタスクと重なっている」というだけ。研究者たちは論文の中で、こんな趣旨のことを書いています。
ひとつの仕事は、タスクの寄せ集め以上のものだ——と。
たとえば「レポートを書く」という作業。AIは下書きを手伝えます。でも、そこに必要な相手への配慮、専門家としての判断、倫理的な目配り。そういうものは、作業リストには表れない。けれど、仕事の質を決めるのはまさにそこなんですよね。
だから「翻訳は98%重なる」と聞いても、翻訳者という仕事が98%消える、という意味では全然ない。そこは冷静に読まないといけません。
だから、学部を「消える/消えない」で選ぶのはもったいない
ここまで来ると、最初の不安への答えが見えてきます。
情報学部、経営・経理系、法曹。確かにこれらは「AIと重なりが大きい」分野かもしれません。でも、それは裏を返せば——その分野こそ、AIを道具として誰よりも使いこなせる立場になれる、ということでもあるんです。
翻訳の仕事がなくなるんじゃなくて、「AIを使いこなす翻訳者」が、使えない翻訳者より圧倒的に強くなる。法律も、膨大な判例をAIに整理させて、人間は戦略と判断に集中する。経理も、単純な処理はAIに任せて、人は数字の意味を経営に翻訳する仕事へ移っていく。
つまり、AIと重なる分野を学ぶ人は、AIに脅かされる側じゃなくて、AIを乗りこなす側の最前列にいる。私はそう捉えています。
だから、興味があるなら堂々とその学部を選んでいい。「消えそうだから」で夢を諦める必要は、まったくないんです。
それでも「なくなりやすい」と言われる分野に進むなら
とはいえ、何も考えずに飛び込むのと、心構えを持って進むのとでは、4年後・10年後がだいぶ変わります。AIと重なりの大きい分野を選ぶなら、私はこの3つを意識してほしいと話しています。
ひとつ目。タスクではなく「判断・責任・人との関係」を磨くこと。AIに任せられる作業は任せていい。その分、人にしかできない「決める」「責任を負う」「信頼を築く」という部分に、自分の価値を寄せていく意識を持つ。
ふたつ目。AIを敵ではなく、道具として早く触っておくこと。食わず嫌いがいちばんもったいない。大学に入る前から触っておくくらいでちょうどいいです。
みっつ目。自分の分野の「AIに置き換わらない核」がどこにあるかを、学生のうちから考えること。法律なら依頼者の人生に向き合う部分、経営なら人を動かす部分。その核を見つけられた人は、強い。
面談では、こんな話をしています
実際の面談でも、AIの話題が出たときは「その学部はやめた方がいい」とは絶対に言いません。むしろ逆で、「AIと近い分野なんだから、AIを一番うまく使える人になればいいんですよ」と。
不安そうだった保護者の方の表情が、ふっとゆるむ瞬間がある。お子さん本人も、「消えるかもしれない仕事」じゃなくて「自分が面白いと思える仕事」として、その分野をもう一度見つめ直せる。そういう時間にしたいと思っています。
結局のところ、「なくならない仕事」を探して進路を決めるより、「自分がずっと問いを持ち続けられる場所」を選ぶほうが、AI時代にはよっぽど強い。問いを持てる人は、道具が変わっても学び続けられますから。
最後に、一冊だけ
このテーマに興味を持った高校生には、今井翔太さんの『生成AIで世界はこう変わる』(SB新書)をすすめています。
著者は、東京大学・松尾豊研究室に所属するAI研究者。第3章がまさに「AIによって消える仕事・残る仕事」というテーマで、生成AIを脅威としてではなく、労働の味方にするにはどうすればいいかを論じています。専門家が地に足のついた言葉で書いていて、新書なので高校生にも手が届く一冊です。AIを正しく知って、正しく付き合うための、いい入り口になると思います。
出典
・Kiran Tomlinson, Sonia Jaffe, Will Wang, Scott Counts, Siddharth Suri「Working with AI: Measuring the Occupational Implications of Generative AI」Microsoft Research, 2025
・Microsoft Research ブログ「Applicability vs. job displacement: further notes on our recent research on AI and occupations」(2025年8月21日)※研究チームによる補足説明
詳しくはLEAD_LEARNING ジャーナルでまとめています。
























































